できない理由ではなく、できる理由を考える。ディズニーランドのトレーナーが怒鳴ったわけ


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東京ディズニーランドでは、お正月や成人の日に、着物(振袖)を着て来園するゲストが少なくありません。
大切な日をディズニーランドで過ごしていただけるのはとてもうれしいことなのですが、
実は、着物での来園するゲストがいるとは、オープン時は想定されていませんでした。

ディズニーランドがオープンして初めてのお正月のお話。
着物を着てやってきたゲストを見て、キャストたちは慌てました。
着物を汚してしまったり、破損させてしまったりといったことがあっては、楽しい思い出を持ち帰っていただくことができないからです。

海賊船、カヌー、イカダ、ジャングル探検、小さな世界旅行など、水を使ったアトラクションは、何かの拍子にゲストに水がかかる可能性が高く、それを防ぎようがありません。
結局、アトラクションキャストが入口で、「水がかかってしまう可能性がある」旨をお伝えして、ご了承いたただいてから乗船・乗車いただくほかありませんでした。

そのおかげで、クレームをいただくことはありませんでしたが、今後、着物でも来園されるゲストが増えることは予想されることでした。
おそらく、2週間後の成人式も…。

そこで、今のうちに何か対策を考えなければならないということが全キャストで一致しましたので、それぞれ対応策を考えるべく、責任者が集まってミーティングを開くことになりました。

「まずは、やっぱり、注意喚起が必要では?アトラクションの入口に目立つ看板を設置するのはどうだろう?」

「でも、それはお正月や成人の日だけのことでしょう。1年のうち約4日のためだけに大きな看板を作るのはどうなの?」

「うーん、確かに…」

「それならその日だけ、入口で配るガイドブックに水がかかりやすいアトラクションはこれとこれです、と目立つように明記するか、着物に水がかかる怖れがあると記載したメモみたいなものを挟んで渡したらどうかな?」

「おおー、いいねぇー!」

「ただ、お正月や成人の日は祝日でしょ。そうすると、1日6万人から8万人分のガイドブックにメモを挟む必要があるよね。そうすると、大変な作業だし、メモの印刷だって結構なコストになるんじゃないかな?」

「うーん…」

「だったら、入口のチケットブースとゲートで着物を着て来園されたゲストだけにそのメモを渡せばいいんじゃない?」

「確かに、それだったらそんなに部数要らないよねー」

「おおー」

「成人式って一生に一回だよね。だったら、メモとかじゃなくて、“成人おめでとう”って、きっちりデザインして、キレイな紙でカードを作ったら喜ばれるんじゃないかな?」
「おおー、それいいよ!!」

以上のように、責任者同士で盛り上がって話し合っていると、部屋の隅で通訳を通して一部始終聞いていたアメリカ人トレーナーが顔を真っ赤にしてこう怒鳴りました。

「Be quiet!!(静かにしろ!!)」

和気あいあいのムードだった会議室が一瞬にして静まり返りました。

「さっきから聞いていたら、なんなんだ。アトラクションの責任者が集まって、いったい何の会議をしてるんだ!!
成人の日は日本人の君たちにとって大切な文化なんだろう?
その大切な日にわざわざ正装して僕らのパークで過ごしてくれるんだろう?
それなのに、君たちはこの数時間の会話はなんだ!!
そろいもそろってアトラクションに乗せ“ない”ための相談をしているだけじゃないか!本当にそれが、僕らの考える“最幸”ゲストサービスなのか?」

「……」

「僕らが今、ここで考えなければならなかったのは、乗せ“ない”方法ではなく、どうやったらお乗せ“できる”かじゃないのか!!
どうしたら、この大切な日の思い出を“最幸”のものにしてあげられるか、それを考えることじゃないのか!!
水がかかって汚れてしまうことがあるなら、なぜ、着物が濡れないような専用レインコートを用意しようとしないんだ?
各アトラクションの入口にそれらを準備しておけばいいじゃないか。着物のゲストがいらしたら、そのレインコートをお渡しする専用のポジションを置けばいいだけだ。
たった1日そのポジションが増えるコストと、その大切な1日を何の心配なく過ごせるようにして、楽しい思い出を作って差し上げることと、どっちが大切ななんだ?
なんの心配なく楽しんでいただくことこそが、私たちが目指すゲストサービスだろう!!」

「……」

「もし君たちが考えるように専用のカードを作ったとして、それを君たちがどう使うつもりなんだ?
着物が汚れたり、振袖が引っかかって破けてしまったりしたゲストに向かって『お客様、このカードには目を通されましたか?』『入口で水がかかる可能性があることはあらかじめお知らせしましたよね』とでも言うのか?」

「……」

「君たちが考えていたようなことをサービスというのなら、それはディズニーのサービスではない。“免責のサービス”だ!!僕らはどのような事情をお持ちのお客様であっても、このパークの中では、誰もが子どもの頃のように何の心配もなく、自由に夢の時間を楽しめるようにしたい。それが、僕らが掲げるポリシー“すべてはお客様のために”のはずだ」

「……」

「怒鳴ってしまってすまなかった。でもね、サービスを間違えないで欲しい」

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