遺体はね、古い家みたいなものさ。死は、その古い家から引っ越して出て行ったのと同じなんだよ。


ikikiteru_20140509_01_001

私には死への恐怖というものがない。

私の最愛の友であり、最高の先生だった母からの教えがあったからだ。

寝るときも、どちらかが旅行に出るときも別れ際にいつも、母はこう言った。

「また、あしたの朝になったら会いましょうね」

それは、母が決して破ることのない約束だった。

私の祖父は牧師だった。

それはちょうど19世紀も終わりの頃で、当時は教会の信者が亡くなると、牧師館の居間に遺体を安置したものだった。

まだ、8歳かそこらの子供だった母には、それはひどく恐ろしいことだったに違いない。

ある日、私の祖父は幼い母を抱き上げ、遺体を安置した部屋へ連れて行った。

そして、祖父はこう言ったという。

「その部屋の壁をさわってみなさい」

そして、続いて祖父はこう母に尋ねた。

「メアリー、どんな感じがするかい?」

「えーと、固くて冷たいわ」
母はそう答えました。
いた
祖父は母をまた抱き上げて、お棺の方へ連れて行くとこう言ったそうだ。

「メアリー、これからお前にやって欲しいことがあるんだよ。今までに頼んだ中で一番難しいことだと思う。でも、もしそれができれば、お前はもう死ぬことが怖くなくなるよ…。いいかい、お棺の中のスミスさんの顔を手で触ってごらん」

母は祖父を心から愛して信じていた。

だから、祖父の言われた通りにした。

「どんな具合だったかい?」
と祖父が母に尋ねた。

「ちょうど、さっきの壁を触ったときと同じみたい」
そう母は答えた。

すると、祖父は説明を始めた。

「その通りさ。遺体はね、古い家みたいなものさ。亡くなったスミスさんは、その古い家から引っ越して出て行ったのと同じなんだよ。だから、怖がる必要はない。古い家を怖がる理由なんかないものね」

祖父のこの教えは母の心にしっかりと根を下ろし、やがて母の傷害を通して大きく育っていった。

彼女には死への恐怖など全くなかった。

そんな母が、亡くなる8時間程前になって、実に変わった願い事をした。

私たちが母のベッドのそばに立ち、懸命に涙を押さえていたとき、母はこう言った。

「私のお墓にお花なんか持って来ないでね。だって、私はもうそこにいないんですもの。この身体から出たらすぐに、お母さんはヨーロッパに飛んで行くのよ。お父さんったら、ちっとも連れて行ってくれないだから」

部屋中が笑いであふれていた。

そして、その夜はもう誰も泣く者はいなかった。

夜もふけて、みんなは家に戻って寝ることにした。

それぞれが母にキスをして「おやすみ」を言った。

母は微笑むとこう言った。

「また、あしたの朝になったら会いましょうね」

でも、翌日の朝6時15分に、医師が電話で母の死を告げた。

そう、彼女はヨーロッパへと飛び立ったのだ。

それから2日後の朝、私は良心のアパートで母の遺品の整理をしていた。

すると、ファイル入れから母が書いたものがたくさん見つかった。

開いてみると、一枚の紙が床に落ちた。

それは、詩だった。

母が作ったものなのか、誰か他の人の作品なのかは定かではない。

ただ、母がとても大切にしていたことだけは確かだった。

しかも、なぜかこの一枚の紙だけが、そのファイル入れからこぼれ落ちたのだった。

愛する人へ

私が死んだら、私が残したものは子どもたちにあげてください。
もし泣くなら、あなたの横にいる人たちのために泣いてください。

あなたのまわりにいるすべての人々を抱きしめ、
私に与えようと思うものをあげてください。

あなたに残していきたいものがあります。
それは言葉よりも、もっともっと素晴らしいものです。

私が出会い愛した人々の中に、私は生き続けます。
その中に私を見つけてください。

私なしでは生きていけないと思ったときは、
あなたの見るものの中に、
あなたの心の中に、
そしてあなたの親切な行ないの中に、
私を見つけてください。

みんなと手を取り合って生きていってください。
でもときが来たら、子どもたちを自由にしてあげてください。
それが、あなたから私への素晴らしい愛の証です。

愛は死ぬことはありません。死ぬのは肉体です。
だから、私の肉体が滅び愛だけになったら、
どうぞ、その愛をまわりのみんなにあげてください。

これを読んで、父と私は顔を見合わせて微笑んだ。

二人とも、その場に母がいるのを確かに感じたから。

そして、朝が来た。

ポーラ・ホワイト

「子供」, 「母親」の人気記事はこちら

過去の記事を全て一気に読みたい

全記事一覧はこちら

Facebookでファンを募集しています。

いいね!を押して頂けると、今悩んでいる人にあなたのメッセージがそれとなく伝わります。

コメント

  • トラックバックは利用できません。
  • コメント (0)
  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


カテゴリー

ページ上部へ戻る