
もの心ついた時から、僕にはおかあさんがいませんでした。
母親代わりにぼくを育ててくれたのは、目の不自由なおばあちゃん。
でも、おばあちゃんは目が不自由とは思わせないほど、明るくて元気で、そんな大好きなおばあちゃんとぼくは、ずっと2人で一つで生きてきました。
台所ではおばあちゃんが慣れない包丁をスームーズに使って料理をする横でぼくは、お鍋にごみが入ってないか見守るのがぼくの役目。
そんな子供の頃の出来事で、今でも思い出すのが、ぼくが保育園に預けられて間もなくの事。
送りの時は僕と一緒にいて、手を繋いでいるのでいいのですが、目が不自由なおばあちゃんは迎えに来るのが一苦労。
なので保育園から帰る時は、決まって僕がいつも最後。
そんなある日、いつものように友達と遊んでいた子が、1人、また1人と迎えに来て結局、ぼくはまた1人ぼっち。
小さなジャングルジムで遊ぶことになりました。しかし、辺りが暗くなってもおばあちゃんは迎えに来ません。いつもならもう迎えに来ている時間なのに。
「ぼくは、おばあちゃんに捨てられたんだ」と思い、不安でいっぱいになって、泣きそうになって、でも先生にばれたくなくて、ずっと下を向き、堪えていました。
どのくらい時間が経ったのでしょう。「清人くん、迎えにきんしゃったよ」という先生の声が聞こえました。
顔を上げると、そこにはおばあちゃんがました。
ぼくは、「なんで、こんな遅いと」と近寄ると、おばあちゃんのおでこに大きなタンコブがありました。
遅うなってごめんね、道に迷って電信柱に頭ばぶつけてね。おばあちゃんはぼくを捨てるどころか、一生懸命ぼくを迎えに来てくれていたのです。
その日の帰り、ぼくはいつも以上におばあちゃんの手を握っていました。
おばあちゃん、いつまでも長生きしてね。今度、ひ孫の顔見せにいくけんね。